『景の海のアペイリア』、先日読み終わりました。
プレイ中、この作品にすごく熱中してしまい、その熱意を新鮮なまま形として残したかったので記事を書くことにしました。
※前半ネタバレなし感想、後半ネタバレ全解禁のここ好き発表会でお送りします。成人向けコンテンツであるため、18歳未満の方の閲覧はご注意ください。(直接的な表現は避けています)
あらすじ
名前も顔も居場所も知らない。 実在するかさえわからない。 お前を必ず見つけ出す―― 『このメールは未来から送信されている』
2045年 冬。
双葉学園 萌えるAI研究会に所属する桐島零一は、偶然にも自我のある人工知能アペイリアの開発に成功する。 触れてみたい、とパソコンの中の彼女が言う。
零一はAI研究会の部員たちと共に、デジタルの彼女に触れる方法を模索する。 そしてアペイリアの機能を使い、完全没入型VRMMO『セカンド』を作った。
剣と魔法、科学の融合したその仮想世界は第二の現実で、彼らは馬鹿騒ぎをしながら冒険を始める。 だが、『セカンド』は制御の利かない危険なゲームだった。
仮想世界に囚われたアペイリアを救うため、零一たちは命懸けでログインするのだが…… 自我を持った人工知能と、彼女を開発した零一。
そしてその仲間たちが送る、恋と青春の科学冒険ファンタジー。 ――やがて彼は、一つの仮説に辿り着く。
アペイリアを奪おうとしている、何者かの存在に。
公式サイトより引用
OPムービー
サビが気持ち弱いことだけが惜しい。
イントロはエロゲソングの中でもトップ張れる。外歩くとき脳内でイントロ流しながらムービーのアペイリアみたいにゆっくり歩くの楽しいからオススメ。
「始まりがいつだったのかさえ知らない」〜サビ前までのメロディが好き。
「支配者は誰だ」のところで、点滅するPCと共にOPタイトル『アペイリア』がテキスト風に表示されるのもめっちゃ好き。
元々曲自体は聴いていましたが、ゲームプレイ前と後ではムービー含め受ける印象も少し変わりました。
シナリオ
ストーリー重視のSF作品だけあって読んでいて続きがすごく気になった。やめどきが全然見つからないくらい面白いです。
シナリオ派特有の複雑で難解な箇所も図を用いて読み手が置いてけぼりにならないよう工夫されているのが良心的。(こんな感じ)
戦闘描写や敵キャラとの心理戦、恋愛描写といった大筋のストーリーに直結しない部分の出来も良い。
ここまでの話ではお堅い感じに見えるが、実際のノリは下ネタ多めでテンポが良いバカゲー。そのおかげもあってか、最初から最後まで中だるみせずにノンストップで読み切れました。イメージ的にはぬきたしが1番近いと思います。
18禁ゲームでしか表現できないという観点ではこの作品の右に出るものは中々ないのではないかと。
主人公について
主人公の桐島零一は変態でおバカだが、頭の回転が恐ろしいほどに早く賢い。
もしも彼が地頭の良くない主人公だったらアペイリアの作風に合わないと思います。かといってなんでもできる最強人間だったら、深みのない俺TUEEEE主人公になってしまい自分の好みに合わなかった可能性もあるので、ある意味良いバランスかもしれない。
そして戦闘方法が最高に最悪。気になる人は公式が上げてるプレイ動画からぜひ。戦闘シーンだけボイスが付きます。
AIに対するスタンスをはじめ終始思考は一貫しているのは好感。魅力的な主人公だと思います。
ヒロイン紹介
この手の系統の作品はキャラがストーリーの舞台装置になってしまったり、メインヒロイン以外空気になってしまう。ということもたまにあるが、アペイリアは一人ひとりに役割と重みがあって良かった。
個別も全√文句なく、恋愛描写もしっかりしていました。それだけに全員幸せになって欲しいと思ったし、別の√を選択する度に心が痛くなりました。(この作品の性質上特にその傾向は強い)
好きなヒロインは妹の三羽。次点でアペイリアとましろが同じくらい。
敬語毒舌義妹キャラの三羽は属性が刺さりすぎて登場後3分で好きになった。主人公とのやりとりが見ていて楽しい。
ましろは臆病だけどゲームが上手な女の子。個別√の恋愛描写が1番丁寧で、成長ぶりも見もの。
メインヒロインのアペイリア、純真無垢で主人公に尽くす姿が健気。「ポジティブ」「ネガティブ」といった独特な口調が癖になる。それに合わせたジェスチャーもかわいらしい。
お姉ちゃんキャラの久遠。厨二属性。個別やると思ってた以上にいい娘でした。
CG
CG自体は悪くないと思うが、自分の好みにはそこまでマッチしませんでした。枚数は標準か少なめ。
ヒロインと主人公が一緒に描かれているものが多くてそれは良いんだけど、ヒロイン単体のCGももう少し欲しかったです。
零一、アペイリア、三羽の3人が手繋いでるやつ(上画像)と、真√の1番最後に回収するCGが好き。
音楽
BGM単体で聴くとそこそこ。ただやはり本編が面白いから自ずとBGMも好きになりました。印象に残っているのは、『アペイリア』『絶剣』『戦闘』『希望』あたり。割とサントラほしい。
ネタバレなし総評
シナリオはじめ全ての面において最高の完成度を誇るSF作品。個人的には今までプレイしたエロゲの中で3本の指に入ります。
謎が徐々に明かされていくシナリオ、伏線回収、ループものといった要素が好きな方は絶対にハマると思う。逆に下ネタ多用が無理な人はノリが合わないカモ。
キャッチコピーである、
『恋と青春の科学冒険ファンタジー』
はまんま言葉通りで本ッッッッ当にこれに尽きる。
「恋」「青春」「冒険」「科学ファンタジー」全ての要素が揃っての『景の海のアペイリア』です。
ネタバレ知っちゃうと絶対に面白さ半減するから頑張って抑えました。そのため説明がふわっとしてますが、少しでも雰囲気が伝われば嬉しい。
まじで面白かったからみんなやって!!!
以降ネタバレありです。
物語の核心にも触れていくため、未プレイの方はここまででお願いしますm(_ _)m
・ここすき発表会
セカンド内で使用できる能力、デザイアの設定が良い
セカンドで使用できる異能、デザイアは個人による願いが元になっています。そしてデザイアを発動するには動作もしくは、ものをコストにする必要があります。この設定が能力ものとして秀逸で戦闘も奥深いです。
ましろのデザイアはセカンド内通貨をコストにした等価交換だが、その中でもアクション強化が得意。それは病気で満足に身体も動かせない彼女の願いなのだと思います。他にも寂しがり屋な三羽のデザイアが精霊召喚だったり、デザイアの設定がキャラの心情とリンクしているのが良いですね。
ループしている理由が明かされる
ループものの作品は世に多く存在しますが、『アペイリア』はループしている理由まで矛盾なく描ききったことも評価しています。(実際に時間が巻き戻っているわけではないが)私はそれほど沢山ループもののアニメやノベルゲーに触れてきた人間ではないですけど、本作はそういったSFの中でも最高級の完成度ではないでしょうか!
マザードラゴン戦好きすぎ
共通√の山場マザドラ戦。誕生日なのに予定がなく、祝いも親からのメールのみ*1、というましろのためにみんなが奮闘する話。
無理ゲーなのになぜ諦めないのか?というましろの問いに
「「「「今日はましろの誕生日だ(です)」」」」
でハモるところ最高に青春。このシーンはまだストーリー序盤の段階で、各キャラの背景も詳しく分かっていなかったけど、それぞれ苦しい過去を背負ってきた者同士だからましろのために必死になれるんだな。ってことが伝わってきて感涙でした。
ましろの「21連撃 15876イェーン。」の淡々とした口上最高に好き。
普段は控えめな娘が得意分野になると実力発揮する*2って展開は王道ながら超ポジティブ○
三羽の、「セントラルドグマを書き換えます。コード・レッド!」も好き。
「コード・○○!」のちょっと明るい掛け声好き。
シンカーとの議論や心理戦が面白い
本作を語る上では外せないシンカーの魅力。敵役ながら、なかなか憎めないというか。零一の馬鹿げた下ネタへの真面目な返しとか、こちらも主人公とのやりとりが好きです。あとデザイアの詠唱と技名がかっこいい。ダウトや、アペイリア√でのループ議論では読んでいてこちらまで緊張する展開で本当にドキドキさせられました。途中までまじで空観なんじゃないかと疑ってましたw 「敵に最後まで勝ちを確信させたまま、こちらが勝てばいい。」最後の最後までヒールとして立ち回った姿は圧巻です。
ましろ√ セカンドへログインの決断
1週目では自分の命があと数年しか持たないと分かっているから、アペイリアを助けるために臆せずデスゲームと化したセカンドへログインしたましろ。それが今度は病気を回避して、零一とも結ばれて、幸せな未来が望めるかもしれないって状況で同じ選択肢。迷いながらも「いま逃げたら死ぬまでこのことを後悔する。」と、決断します。臆病でずっと逃げ続けてきた彼女の、否定したらすぐにでも揺らぎそうな勇気。2つの時間軸での対比がまじでさぁっっ……!!ましろ√本当に完成度高い。
アペイリア√ 最後の大晦日
残りわずかな時間しか一緒に過ごすことができないって展開に弱すぎて、当然これもダメでした。今までどの時間軸でも涙を見せることのなかった零一が、守るって約束を果たせなくてごめん。って謝るシーンが本当に心にきた。その代わりに、PCを正常にしてあげたり、年越しそばを作りたいって希望に応えたり、小さい願いごとを全部叶えてあげようとするのがすごく切なくて……。
真の現実世界にて三羽との会話
三羽の「
ちょっと気になった点
世界の仕組みが明らかになった後の終わり方がだいぶあっさりしていて、これで終わり?って感じでした。零一たちAIと実際の人間の戦いが見たかったわけではないけど、エピローグに繋がるもう少し具体的な描写は欲しかったかも。エピローグの世界が仮装空間なのか、現実世界なのかすら明らかにはしていない(はず)ですから。*3例え偽物でも彼らが幸せだと思える未来を選択した。ってのは話の着地点に相応しいと思うのですが。
追記:FDのカサブランカの騎士では本編後、零一たちは現実世界に移ったことが明かされました。そのため少なくとも元の仮装空間ファーストに留まっているわけではないようです。現実の人間たちを技術特異点である零一及びアペイリアの力で誤魔化し、現実で暮らしている。というのが1番近しいのではないかと。
あと立ち絵の差分が少ない気がする。ましろとかずっと左手挙げてるし……笑
最後の干渉縞が消えた演出は?
お約束通りに捉えるなら、観測者は画面の前の君だよ。ってことなのでしょうがどうなんすかねー。零一たちAIが最後にどのような選択をとって、平穏な日々を取り戻したのか。具体的な描写はされていないので、それと合わせて読者の想像に委ねる。という意味で受け取ってみます。
『景の海のアペイリア』タイトルの意味は?
まずは「景」の部分。景は“かげ”とも読むそうなので、光と影みたいな意味がありそうです。また“景”は、風景とも捉えられます*4。風景は自然の眺めという意味合いが強いため、全てが人工物であるこの世界とは真逆に当たりそうです。が、逆説的に“景”には光と影、現実世界と仮装世界、AIと意識、のような二面性が込められているとも解釈できます。
そして“海”ですが、作中に海らしきものは出てこないため言葉通りの海ではないでしょう*5。ただし作中では二重スリット実験の話をはじめ、波という単語は多用されます。可能性が可能性に干渉し、新たな可能性をつくりだす。波と波がぶつかって新しい波が生まれることを干渉という。無限に広がる確率(可能性)の波を海と無理やり解釈してみます。
以上のことから“景の海”は、相反する要素を内包する無限の可能性と捉えました。結構なこじつけですけど、『アペイリア』の作風に似通ったものではないでしょうか?
振り返り
SF作品としての評価が高い『アペイリア』ですが、自分はもっと感情的な部分でもこの作品を楽しむことができました。
最近はポケモンばかりやっていて、ノベルゲーの熱が薄れつつありましたが、これほど素晴らしい作品と出会えて、改めてエロゲやってて良かったな。となれる最高の作品でした。本当にありがとうございます。
並びに最後まで閲覧して頂いた方、ありがとうございました。
なにかあれば@FluctiStoneまで